2011年4月 1日アーカイブ

  「目標の一致」- これは、科学的な臨床心理学であるアドラー心理学の技法の一つである。子育てや教育、そして人を援助する仕事をするときに、有効に働く。その根底には「人は誰もが自分の人生を自分で生きなければならない」という考え方がある。一見、そんなことは当たり前だと誰もが思うかもしれない。

 しかし、私たちは、実際の生活の中では、自分の価値基準で物事を見て、人とかかわっている。人を援助するとき、その人がどう生きていきたいのかがまずありきであり、そこに援助する側の価値判断は存在しない。援助する側は、援助される側の方向性に対し、必要なことを協力していく立場に立つことになる。

 このたび私は、県の沖縄新規学卒者緊急就職支援事業として、1~3月の間、八重山農林高校に就職コーディネーターとして配属された。八重山では、委託先である民間企業から依頼された3人が、各高校でその業務に当たっている。この時期に、まだ進路が決まっていないということは、何らかの問題を抱えているはずだからと、個人の状況に応じた個別の密着支援を!ということであった。

 私たち3人に就職支援の経験はない。しかし、私たちは、一人ひとりの思いや考えを聴くことで、これから社会に旅立とうとする生徒が、自らの一歩を考えやすく、動き出しやすくすることは可能であると思った。そして、支援というからには、その一人ひとりの生徒の方向性にそって、協力することであると思っている。

 人は話すことで自分の思いが明確になり、整理ができる。生徒の思いや考えを聴いて、方向性が定まるのを援助する。そして、その方向性に向かいやすくするために、必要なことを可能な限り、協力していく。支援される側と支援する側が、共同の課題に向き合うことになる。これが、「目標の一致」である。

 生徒と面談するとき、大切にしたいのは、価値判断をしないこと、ノージャッジで臨むことだった。その子なりの18年生きてきたヒストリーがあり、その経験の中から自身の考えや思いがある。そこを大切にしたい。そして、自身の先を見据えた、スキルアップのための一歩である視点に立ってもらいたい。

 安易にバイトでもいいと考えている生徒には、社会の仕組みや制度の話をする。目先のとりあえずの仕事ではなく、長い目で見たときの、自分にとっての有益な情報としてとらえてもらいたい。それでも決断するのは、自身の人生を歩いていく生徒自身である。その生徒の決断を応援する姿勢に変わりはない。

 また、その業務の一つに企業開拓もあった。生徒の希望する職種の開拓にも当たる。この度、新規学卒者就活を促進する体制として、県外から参加する企業と離島の生徒への旅費全額補助の合同面接会、専門家による集合研修会、採用拡大奨励金制度等も用意されていた。

 そうして一人、また一人と進路が決まっていく。それは先生方、ジョブサポーターさんの築き上げてきた土台と協力、ハローワークの担当の方との連携、すべての調和があってこそである。一人の生徒の就職が決まった! と喜びを分かち合う瞬間がうれしい。皆が同じ目標でいたことを再確認できる瞬間でもある。そして、現在進行形で3月末日まで就職支援は続いていく。一人でも多く、意義のある就職に結びつくように。
(八重山毎日新聞 日曜随筆より転載)

【市原 由加里 2011年3月13日】