2012年5月アーカイブ

5月20日日曜日、岡山市の国際交流センターで、第9回中国地方会が開催されました。
他地区からの参加も含めて53人が集いました。


テーマは昨年に引き続いて『アドラー心理学の基本前提の理解と伝達』です。今年は中国地方区内の5つの自助グループが、小学校高学年以上の子どもたちに基本前提をわかりやすく伝えることを目標にして方法を研究し、発表しました。


午前中は4つのグループが発表し、それぞれの発表に対して中島弘徳指導者がコメントをされました。


岡山市の「ほどほどの会」からは山本卓也さんが、アドラー心理学の5つの基本前提を説明する、スライドを使っての講演を発表しました。アドラー心理学の基本前提が日常的な事例とともにコンパクトに説明されていました。


倉吉市のグループは、「高校3年生のロングホームルームで『人生は運命に定められているか、それとも自分で決められるか』をテーマにしたグループ討論をする」という設定のもと、討論を実演発表しました。このように、討論のテーマの選び方によって、アドラー心理学を知らなかった人が、アドラー心理学の提案する生き方について考えるきっかけができることになるかもしれないと思いました。


浅口市のグループ「あるふぁの会」の発表は、人形劇を使って小学校高学年の子どもたちに「目的論」を伝える試みでした。目標は「目的論」を伝えることですが、この発表を見て感じたのは、困ったときにどうしたら解決にむかうかの知恵を、具体的な形でもらえた、ということでした。


個人的な感想ではありますが、アドラー心理学と初めて出会うときには、むしろこんなふうに実際に役に立つ知恵の形にしたお話が聞けたら、「もっと知りたい!」と思ってもらいやすいのではないかしらと思いました。


島根県のグループからは、少人数のお芝居で「仮想論と目的論」を伝える試みの発表でした。お芝居の中で、学校の先生とアドラー先生が会話をする場面があって、そこでのアドラー先生のセリフはアドラー自身の言葉でできていました。するとアドラー先生のセリフ部分だけ会話言葉とは違う口調になります。そのせいか、返ってアドラーの言葉が強く印象に残りました。中島指導者から「アドラーの言葉を身につけて実践することは、アドラー心理学を伝えるのによい方法だと思います」とのコメントがありました。人としてのアドラーはすでに亡くなっていますが、その言葉はこうして生きて伝わっていくのですね。


午前中の最後に、「ガハク」こと松村宏さんのオリジナル紙芝居の上演がありました。この地方会のための書き下ろし(?)作品は、感情についての話で始まり、最後には「『競争』と『協力』の二つの生き方があるけど、あなたはどっちを選びますか?」というお話に到達します。基本前提の言葉を使わずにアドラー心理学の理論と思想を紹介していて、日常生活に役立つ考え方をすんなりと伝えてくれるところがすばらしいと思いました。


「アドラー心理学を伝えるツールは私たちがすでに知っている方法の中にたくさんあるんだと思いました。人形劇や紙芝居のような方法を使うことで、より広めやすくなるのではないかと思います」と、中島指導者がコメントしておられました。


午後は、「おとぎ話を基本前提で読み解く」というワークをしました。広島のグループが研究された方法です。広島のグループによるデモの後で、日本の昔話を少しづつ読み、書いてあることを、アドラー心理学の基本前提を通すとどう解釈できるかをグループで考えました。各グループをベテランのアドレリアンがリードし、中島さんと山本さんがフロアーをまわって、ときどき考えの活性になる仕掛け花火のようなアイデアを置いていってくださいました。


中国地方区の竹崎理事は、「基本前提を理解することで、自助グループでだけでなく一人でいるときも、自分のアドラー心理学の実践をチェックできるようになる」と、地方会で基本前提を学ぶことの意味について語っておられました。


アドラー心理学を学んでいると、いつか必ず5つの基本前提と出会います。これらは、例えばパセージテキストに書いてあることの理論的な裏付けとなったりしているので、アドラー心理学をしっかり勉強するなら知っているべきだと思いますし、知っていると、困ったときに自分の行動などを理解する上で役に立つことも多いでしょう。


例えばある言語を習うときに、単語を知ってそれを例文で使いこなす練習は、練習としては意味があると思います。が、単なる知的趣味か研究のためでなければ、実際に使って、役にたってこそその言語を学ぶ意味が本当にできるのだと思います。同じように、例えば自助グループなどで事例が出たときに、基本前提に照らして考えることで問題が解決に近づくとすれば、そのときにこそこの地方会で学んだことが意味を持ってくるのだろうな、と思いました。


また、アドラー心理学の理論のもう一つの切り口、つまり、人がライフタスクを解決しようとして行動を起こす、というダイナミックな面と基本前提とを一緒に考えることで、アドラー心理学が役に立つ場面を一層広げることができるかもしれないと思いました。さらに、理論面だけでなく思想面については今後どのように取り組んでいかれるのかも、楽しみに思いました。


たくさんのひとにアドラー心理学を知ってもらい、一緒に学ぶ仲間が増えるのはとても嬉しいことです。今回の中国地方会は、そのための様々なアイデアを実現しました。いろいろな職種や立場の人々がそれぞれの個性を活かしながら成り立っているのが日本アドラー心理学会の特徴ですが、そのリソースが十二分に発揮された会だと思いました。


【大竹優子 2012年5月25日】

子育てワークショップを終えて

先日、金沢で澤田裕子さんの子育てワークショップを開催しました。

アドラー心理学に初めて出会う子育て真っ最中のお母さんたちが8名、今までにパセージ、プチパ、応用編を受講された方が9名、計17名の方が参加してくださいました。何よりうれしかったのはすでにアドラー子育てを実践してくださっているメンバーさんから口コミなどで新しく8名の方が参加してくださったことです。さざ波のような広がりかもしれませんが、アドラーのともし火を受け取ってくださった方が次の方へと渡してくださったおかげと心から感謝しております。

さて今回はアドラー心理学の子育てに少しでも関心を持っていただきたいということで"勇気づけをはじめよう"ということをテーマにワークをしていただきました。そのワークは子どもだけでなく、まさに参加されたお母さん、お一人おひとりを勇気づけるワークだったと思います。

印象に残っていることを書いてみます。

1.最初に、
・アドラーの生きた時代背景からアドラーが子育てに主力を注いだ理由。
・アドラー心理学は、子どもへの対応は実は次の社会を作ることにつながる社会的にたいへん重要な、そして大切な使命だと考えている。
・だから私たち親はとても重要な仕事をしている。
というお話をされました。

ここで一気に、"我が子" の子育てから "社会の一員としての我が子" の子育てに視野が広がったように思いました。社会に組み込まれた存在として子どもを育てていこうというアドラー心理学の立ち位置で子育てをとらえると、子育ての価値に改めて気づくことができ、子育てをしている自分自身への誇りを感じることができるように思いました。

2.次に子育ての目標を話し合い、そこから自立、社会と調和というキーワードについて意見交換をしました。

自立については、子どもには自立を願うのに、親である自分自身は自立しているとは言えない、だから矛盾している、と思っておられる方がたくさんおられました。経済的に自立していない、一人ではなかなか決められない等々。社会と調和については、調和というのが具体的にどういうことなのかイメージしにくい、 あるいは人と調和して暮らそうとすると我慢して暮らすというようなイメージがあるという意見が出ました。

しかし澤田さんからアドラー心理学は、

・自立を全て一人でできることと考えるのではなく、自分のできることをして人と助け合って暮らすことをだと考えている。
・アドラーはいろいろな価値観を持った人々の中で生きた人であり、そのような状態でもなんとか折り合いを見つけて暮らしていこうとした。そのために自分の意見を言葉で伝え、相手の意見も聴いて、少しでも協力しあって暮らすことを目指した。

というお話しがあり、
改めて自分の暮らしを振り返ってみると、毎日、料理をし、掃除をし、子どもの面倒を見、仕事にも行き、私は自分のできることをして家族を助けて暮らしている、家族も私を助けてくれていると思う、そういう暮らしの中でどうしたら仲良く暮らせるかを工夫することが必要だと思う、というような意見が出、自立や社会との調和について実現可能なイメージでとらえ直すことができたように思いました。

3.親が困っている、いやだなと思っている事例をもとに、どうすれば子どもを勇気づけて暮らせるかを話し合いました。

ここでは次のような勇気づけのポイントを教えていただきました。
・そのような行動をとる子どもの考え、感情、意思は子どもに聴いてみないとわからない。それを一番知っているのは子ども自身、だから心穏やかな時に子どもに話を聴いてみよう。大人はいつでも子どもの相談に乗りたい。勇気づけの第1歩は子どもの話を聴くこと。
・怒っているときは勇気づけのチャンスではない。そのようなときは一旦、クールダウン。子育ての心理面の目標を思い出すのも一手。
・親が不安に思ったり、やめて欲しいと思っている行動でも、子どもは今、自分が持っている能力を精一杯、使って対応していると尊敬し信頼しよう。その視点で子どもの行動を見、きちんと子どもの話を聴くと子どもの能力が見えてくる。
・勇気づけはいつでもできる。子どもがとりたてていいことをしていないときでもできることが勇気づけの強み。

このような視点で子どもの行動をとらえ直すと、子どもに怒って言って聞かせることは多々あっても、ゆっくりと穏やかに子どもの話を聴くということはあまりしたことがない、今度は子どもの話をしっかり聴いてみようと思うとか、だめな行動だと思っていたけれど、子どもなりに考えて今の行動をしている、能力があるなあと改めて気づけたという意見が聞かれました。

ワーク後のみなさんの表情から、家に帰ってやってみよう、やってみたいという意気込みのような熱気を感じました。それはワークが参加者一人ひとりの能力や子どもへの愛に改めて強く気づかせてもらえるものだったことと同時に、実現可能な方法を提案してくださったおかげだと思います。

たくさんのことを学ばせていただきました。
澤田裕子さん、みなさま、本当にありがとうございました。


【田中 路子 2012年4月25日】