【山田 進一(徳島)】
平成23年8月27−28日神戸にて第21回日本外来小児科学会年次集会が開催されました。日本外来小児科学会は、小児科での総合医療と外来診療に関する研究と教育を促すことで、小児医療の向上を図ることを目的に発会しました。年次集会は、一般演題の他、ワークショップの比重が高いことが特徴です。救急医療や予防接種、禁煙支援、カウンセリング、最近では発達障害に関するワークショップなど、2日間で40−50のワークショップが開催されます。
昨年10月開催されたアドラー心理学会総会で、函館の高柳さん、新潟の柳本さん、そして私(徳島の山田)が、自分たちのクリニックでの子育て支援の取り組みについての経験を交流しました。高柳さんと私は、平成21年の同時期に小児科クリニックを開業し、クリニックでの子育て支援にアドラー心理学が非常に役立つことを実感する毎日でしたから、すでにアドラー心理学をクリニックで生かしてきた先輩の柳本さんを交えての話は非常に盛りあがりました。話の流れで、「アドラー心理学を実践する小児科医の仲間を増やしたいね」という話になり、「そういえば、来年神戸で行われる第21回日本外来小児科学会年次集会に参加するの?」「じゃあ、3人でアドラー心理学に関するワークショップを企画しよう」ととんとん拍子に話がすすんで、今年の夏外来小児科学会年次集会でワークショップを行うことになりました。
ワークショップの開催の目的は、当然『アドラー心理学を「おもしろい」、もしくは「役立つ」と思ってもらい、もっと勉強したいと思ってもらうこと』としました。また、この企画には、我々3人だけではなく、新潟の河内博子さんにも同じ小児科の立場から加わっていただきました。
ワークショップを年次集会にエントリーするためには、テーマと到達目標を決めないといけません。まず、テーマですが、アドラー心理学といえば『勇気づけ』でしょうと、すんなり決まりました。2011年度のワークのテーマは、
『勇気づけ』の子育て支援を学ぼう アドラー心理学ワークショップⅠ『お母さんを勇気づける』
となりました。ワークショップⅠとなっているのは、今後も含めて3年はやろうという心意気です。テーマが決まって、必然的に到達目標は 「勇気づけ」の技法を学ぶこととなりました。この内容でワークショップ募集にエントリーをしたところ、今年の2月にワークショップの許可通知をいただきました。
ワークショップは開催できることになりましたが、『勇気づけ』の技法ってどうすれば学んでもらえるのだろうかと話し合いました。いろいろなアイディアがでました。教育講演形式、ゲッシングのワーク、ロールプレイ、事例検討会方式などなど。医療現場でお母さん方と話しているときに、お母さん方の意見と我々医療従事者の意見とのギャップからお母さんの勇気をくじき、トラブルになることが多いよね。ということから、『意見と事実』を分けるワークを入れることにしました。また、相手の関心に関心を寄せるということを練習しては、ということから、「相談的対人関係」「相互尊敬・相互信頼」を伝えようということを決定しました。そして、
1.アドラー心理学の基礎知識 理論、技術、思想についての講義
2.ワーク 「相互尊敬、相互信頼」「相手を勇気づける話の聴き方」
「意見と事実」「パーソナルストレングスを見つけ出す」
3. シェアリング
の内容ですることとなりました。
ワーク前半では、野田先生の特殊講義で例示されているような短いやりとりを入れて、ロールプレイをペアで行い、勇気づける話の聴き方を体験してもらいます。そして後半、こちらがハイライト、話を聴く中で実際に話し手の方を勇気づける体験をしてもらうワークです。グループの一人に語り手になってもらって、困った話題を提供していただき、そこからエピソードを切り出して、それを事実と意見に分けます。それから、事実に関して場所、相手役、自分に分類し、それぞれのパーソナルストレングスを見つけ出して、最後にエピソードを見直す。そこで語り直しが起こって、話し手はもちろん、参加者全員に勇気づけを体験してもらうことができたら満点です。
この後半部分を成功するためは、グループに入るお世話役の役割が重要です。今回ワークショップのメンバーは、高柳夫妻、柳本夫妻、そして私の5名でしたので、グループに入るメンバーが一人足りなくなりそうなので、相談していたところ、大阪の大竹さんと奈良の佐々木さんが助っ人を名乗り出てくださいました。そうして、ようやくワークショップの準備が整いました。
そして、いよいよワークショップの日がやってきました。この日の朝、会場ですべてのメンバーの初顔合わせをしました。開始まで非常にタイトでしたので、挨拶もそこそこに準備に動き始めました。小さなトラブルがありましたが、初顔合わせとは思えないチームワークで、それぞれが的確に動いて無事開始の時間を迎えました。ワークショップの役割分担は、私が司会、柳本さんが基礎知識、そして高柳さんがワーク担当でした。
柳本さんのアドラー心理学基礎知識は、30分という短い時間に、5つの基本前提と共同体感覚、技法の勇気づけを非常にコンパクトにまとめられていました。一つ一つ解説しても1時間ぐらいかかりそうなのに、短くすっきりしていて初心者にもわかりやすく、今度徳島に帰ったら、クリニックの自助グループで使わせてもらおうと思いました。
続いて、高柳さんのワークですが、直前にクリニックのスタッフに協力してもらって、1回実験済み。時間配分もばっちりで、高柳さんの自信作です。
最初は、いっこさん譲りのアイスブレイクで、参加者同士で肩もみをしてもらいました。それまで硬かった参加者の表情が一気に柔らかくなり、笑顔もたくさん見られました。
参加者が、リラックスしたところで、まず最初に、アドラー心理学が考える治癒の公式について説明をしました。アドラー心理学の治癒の公式とは、「悪いあの人、かわいそうな私」をやめて、「私にできることはなにか?」を考えることです。この公式を元にして、その後のワークを進めていきました。
私たちは、毎日毎日いろんな問題を抱えた親御さんたちと出会っています。私たちの目標は、親御さんたちが、「病気や子どもの病状を理解し、自宅でどのようにすればよいかを知って、主体的に子どもの看病に取り組める」ことです。そのための第1歩は、よい関係を作ることです。
よい関係を作るための、相互尊敬、相互信頼の対話を、資料に書かれたシナリオを見ながらロールプレイをしていきました。具体的な出来事を聞く、感情や考えを聞くなどのロールプレイを続けて行いました。このころには、会場全体が打ち解けた雰囲気になっていました。
続いて、グループワークを行いました。私は、アドラー心理学初心者ばかりのグループで、エピソードを聞き取り、パーソナルストレングスを見つけ出すことは、この時間内では厳しいかもしれないと思っていました。ところが、実際、語り手の方が出した困った事例に対して、一つ一つ丁寧に話を聞いていくと、だんだん、語り手の困り具合がグループのメンバーで共有されてきました。そして、ありありとその場面が思い浮かべられるエピソードが出されました。意見と事実に分けるのもスムーズに進み、パーソナルストレングスが次々とメンバーの中から出てきました。初めて出会ったメンバーとは思えないぐらいに、全体に暖かく、いい雰囲気になり、最初のエピソードを読み返した時には、問題と思っていた困った場面が、実にいろんなストレングスに満ちた素敵な場面だったと思えるようになりました。そして、最初の治癒の公式、『私にできることは何か?』に話題が無理なく移っていって、それは感動的でした。
これは、前半のシナリオを用いて、繰り返し練習した「相談的人間関係」『相互尊敬』『相互信頼』のワークの効果でしょうか、同じ医療畑の小児科クリニックで働いている参加者だからでしょうか。理由はどうであれ、初めてのワークとしては満点でした。グループ演習の間、リーダーの高柳さんと大竹さんがグループのヘルプに入ってくださったことも、グループの進行の上で重要だったと思います。何よりサブリーダーだった私にとって、グループの進行を安心して行うことができました。私が入ったグループだけでなく、他の4つのグループでも同じようにうまくいったそうです。各グループに入ったサブリーダーの日頃の研鑽の成果でもあると思いました。
グループ演習の後の質疑で、今後の学習法についての質問が出ましたから、当初の目的『アドラー心理学を「おもしろい」、もしくは「役立つ」と思ってもらい、もっと勉強したいと思ってもらうこと。』も達成できました。
グループ演習の最終に、同じグループのメンバーにそれぞれが感じたパーソナルストレングスを書いた紙を交換して、160分のワークは予定通り終わりました。
昨年の総会に3人で話し合った中身が、今回の様な形になったことは本当に素晴らしいことだと思いました。短い期間で、よく作り上げたなぁと思います。
それができたのも、野田先生を始め、アドレリアンの諸先輩方に教えていただいたこと、また、一緒に学んできたそれぞれの地域の自助グループのおかげだなぁとつくづく感じました。この場をお借りして御礼申し上げます。
さて、日本外来小児科学会年次集会でのワークは3年続けることが目標です。来年もこのメンバーで、次回の開催地横浜に行きたいと思います。次はどんなワークができるか、今からワクワクしています。それに、今回のワークを地元でもやってみたいと思いました。次回に向けてさらにパワーアップしたいです。