2013年2月アーカイブ

Re:ケース・セミナー

大阪で行われたケースセミナーに参加し、心療内科クリニックでライフスタイル分析をしているケースをスーパーヴァイズしていただきました。
そしてとても大切なことを勉強させていただきました。

他の事例からもたくさんのことを教えていただきましたが、特に自分のケースで一番大きく学んだことを書きます。

それは、医療の枠組みの中で治療としてライフスタイル分析をすることについて、です。

1.症状(身体的問題)はorgan dialect(器官言語)である。

アドラーは、「人の劣等な器官が心理学的影響を受けて、それに反応して器官言葉(organ laguage)を話すことがあります。その言葉はつまり、眼の前にある問題に対するその個人の態度を表現しているのです。」と述べています。そして、このようにしてあらわれる症状をorgan dialect(器官言語)と呼び、「この器官言語を理解することは不可欠です。」と言いました。(IPAA,p308,p310)

患者さんはふつう、ある症状をもって医師にかかります。医師は診察したり検査をして、その症状の原因となりうる異常を探します。が、そうした検査などで異常が見られなくても症状がある場合があります。そういう時に医師は心身症を考えて、心療内科へ行くようにと勧めることがあります。

心療内科でこのような患者さんのライフスタイル分析を受け持つときには、その症状をorgan dialectとして考えておく必要があるのです。そのことを、しっかり理解しました。


2.アドラー心理学の「治療」とは何か。

これまで私は、医師から指示のあったライフスタイル分析事例については、症状は医師の受け持ち領分だと考えて、ライフスタイルが言語化されて出るまではライフスタイル分析だけをするようにしてきました。ライフスタイルが出てから現在の問題とライフスタイルの関係を見る時になって初めて、症状とライフスタイルのつながりについて考えるようにしていました。

アドラー心理学のカウンセリング(ライフスタイル分析)では、症状を治すことを、少なくともさしあたっての目標にはしません。自分のライフスタイルを知った上で、これからは「この出来事は私にとってどういうことか、私が幸せになるために自分には何をしたらいいか」を考えて行動するのではなくて、「この出来事はみんなにとってどういうことか、みんなが幸せになるために私は何をしたらいいか」を考えて暮らすことをクライエントさんにお勧めします。症状は、こうして暮らしていくうちに変化していくのだと理解していました。これはおそらく、全くの間違いというわけでもないと思います。

しかしそれは、症状を無視してよい、という意味ではありませんでした。
私はここを取り違えていました。

臨床症状のある人のライフスタイル分析では、症状について医師の問診のように原因論的に聞くのではなく、organ dialectとして質問をするのだとわかりました。もっとも、実際には同じ質問になることもあるかもしれませんが。
そして、「なぜ(何のために)症状が出ているのでしょうね。それを見てみましょう。」と言ってライフスタイル分析を始めるのだ、と教わりました。この一言で、症状そのものが扱われるのではないことをクライエントさんに伝えられるでしょう。

organ dialectである臨床症状とその患者さんの人生とのかかわり、ライフスタイルとのかかわりについて、初回面接のときから(推量ではあったとしても)しっかり出していくことが必要、と、そして最終的には、薬からの離脱を目指すのだ、と教えていただきました。

これがすなわちアドラー派の「治療」なのだと学びました。


3.心理療法は解剖ではなく手術である。

痛すぎて声も出ません。

手術をするまでに、外科医はいろいろな準備をします。診察やさまざまな検査をして、患者さんがなるべく侵襲少なくよい治療が受けられ、よい結果になるように力を尽くします。

心理療法をする場合もまったく同じなのでした。その準備をきっちりとして、つまり、必要な情報はきっちりととって、治癒像(目標)もきちんと描いていかなければならないことを学びました。

具体的な3つの質問も教えていただきました。
1)症状はどんな時にどんなところで起こりますか?
2)医療(薬)がなくなったらどうなりますか?
3)どういう状態になったら医者に来なくてよくなりますか?

1)はクライエントさんの社会的文脈の中での症状の役割についての質問、ということだと思います。3)は治癒像ですから、目標を一致させるための質問だと思います。

が、2)についてはよくわかりませんでした。これは、長く医療にかかっている患者さんにする質問とのことだったので、ひょっとして、長く医療にかかる目的についてやんわりと正対しているのかもしれない、と思いました。

ドライカースの論文に、「患者が、よくなるためにではなく他のいろいろな理由で来ている場合は、目標の一致はより複雑です。そういう人は、自分はよくならないことを証明するためか、しんどい人生の責任を肩代わりしてくれる誰かを探しているのかもしれません。(Psychodynamics,Psychotherapy, and Counseling. pp54-55)」とありますが、ひょっとしたらこのあたりに通じる質問かもしれないと思いました。


これから、心理療法の具体的な方法やケースについて勉強するために、アドラーやドライカースの著作や『アドレリアン』論文集をもっとしっかり読もうと思いました。

そしてさしあたっては、
Ⅰ、セッションの初期には、教えていただいた3つの質問を軸にすること
Ⅱ、臨床症状とライフスタイルとのかかわりを頭に置いて、それをしっかり出せるようなセッションを一回一回して行くこと
をしようと思いました。
ライフスタイル分析だけでなく、診療の時も同様です。


スーパーヴィジョンをしてくださった野田先生、あたたかく見守ってくださったみなさまに感謝申し上げます。


【大竹 優子 2013年1月30日】