夫の価値観を裁かない

最近、自分が夫に対して競合的になっていることに気づいたできごとがあったので、それについて書いてみたいと思います。


うちの夫は家事を手伝ってくれたときに、私が「ありがとう」と言うと、いつもなんとなく怒っているようでした。

例えば、私が取り込んだまま、たたまずに置いておいた洗濯物を夫が見つけてたたんでくれたときなどに、夫に「ありがとう」と言うと、夫はいつもちょっと嫌な顔をして、「だって、たたまんとあなたに怒られるから」とか、「いかにもあんたがたためと言わんばかりにここに置いてあるから」と言っていました。
他にも、家事を手伝ってもらってお礼を言うと、夫からはあまりいい反応が返ってこないことが多く、私は「ありがとう」を言うのがなんだか苦手だなあ、と感じていました。

ある朝のことです。
夫はいつも朝起きてすぐにコーヒーを飲むので、私は夫が起きてくる前にコーヒーメーカーのスイッチを入れていました。
ところがその日夫は、私がまだスイッチを入れる前に起きてきて、私が洗面所にいる間にスイッチを入れて、そのあとトイレに入りました。
私は心の中で、「ああ、また『ありがとう』を言わないといけないな。気が重いな」と思ったのですが、トイレから出てきた夫にかけた言葉は、自分でも思いがけず「あ、ごめんね」でした。
すると夫はちょっとびっくりしたような顔をしながらも、静かに「いいえ」とだけ言い、いつも通りイスに座って新聞を読み始めました。

あれっ?と思いました。
お礼を言うより、謝ったほうがいいんだ。なぜだろう?

考え始めてすぐにわかりました。
うちの夫は封建的な田舎の農家の育ちで、「家事は女の仕事」という価値観を持っています。
4年間のアメリカ暮らしを経験し、歳もとったことで、彼はだいぶ変わってきたようですが、その価値観はいまだに持っているようです。
なので、「ありがとう」と言われるより、「あなたに家事なんかさせて、ごめんね」と言われたほうが、私に大切にされていると感じるのではないかと思いました。
それはつまり、夫の価値観=夫が大切に思っていることを、私が尊重したことになるのだと思います。

もちろん、今どき「家事は女の仕事」という価値観ははなはだ時代遅れだと思うし、私は息子に対してはその価値観は採用してほしくなく、私の持っている価値観「家事は家族全員で協力してするもの」に賛成してもらいたいと思い、息子が中学生の頃から料理を教えたり、お手伝いもしてもらっていました。
でも、61歳の夫をしつけることはできません。
「あなたのその価値観は間違っている。変えなさい」と言うのは、「私は正しい、あなたは間違っている」と、夫を裁いていることになるわけで、とても競合的だと思うし、逆の立場に立って考えてみると、そんなことを言ってくる人に対しては反発してしまうと思うのです。
それならそれで、封建的な価値観を持っている人として、夫とどうつきあっていくかを考えていくのが、夫と良い関係をむすぶ上で大事ではないかと思いました。

むろん、夫が「家事は女の仕事」と思っているからと言って、私が全面的に夫の価値観に合わせる必要はないと思います。
やっぱり家事の手伝いはお願いしたいです。
まったく違う価値観を持つ二人が協力するにはどうすればいいのでしょう?
もしかしたら、その答えの1つが、「あ、ごめんね」だったのかもしれません。

そう気づいて暮らしてみたところ、驚くべきことが起こりました。
私は夫に、あまり家事を手伝ってもらおうと思わなくなりました。
はてさて、これは一体どういうことでしょう?
どうやら私は、家事についてあまり困っていなかったようなのです。
今、私は専業主婦をしています。
確かにアドラーの活動を活発にしたり、大好きなタヒチアンダンスを週2日習っています。
でも、昔の仕事をしていたときのオニのように忙しかった頃のことを思い出すと、比べものにならないくらい時間的に余裕のある生活を送っています。
結局私は夫の「家事は女の仕事」という価値観を、間違っているから変えるべきだ、と思っていて、夫に権力争いをしかけていたのだと思います。
「ありがとう」も、心から出た言葉ではなく、「ありがとうと言えば、きっと夫は勇気づけられて喜んで家事をするようになるだろう」と言う、腹黒い考えから出ていたのでした。
それを夫はちゃんと察知して、「ありがとう」を言われるたびに怒っていたのではないかと思います。

ところで、私はなぜ、夫と権力争いなんかやっていたのでしょう?
それは、「夫が家事を手伝わない」=「私を貶めている」と感じていたからです。
私のことを家政婦とでも思ってるんでしょっ!って、怒っていました。
でも、よく考えてみると、私がそんなひどい人を一生の伴侶に選ぶはずがありません。
一応、男性を見る目はもっているつもりです(笑)。
このことを確かめるべく、夫に聞いてみることにしました。

私「ねえ、Jちゃんて、結婚したときに、家事は女の仕事と思ってたでしょ?」
夫「もちろん。当然そう思ってたよ」
私「今もそう思ってはいるよね?」
夫「そうだね~。だって、そういうふうに育ったんだもん」
私「そうだよね。べつに家事を手伝わないのは、私を貶めてるわけじゃないんだよね?」
夫「とんでもありません!あなたのことは大事に思ってます!」
私「そうだよね。Jちゃんは、ただ自分の価値観を大事にしてるだけだよね?」
夫「大事にしてるっていうか、それしか知らないんです。すいませんねえ、母親にそう育てられたんで。母親に文句言ったってください」
私「(大笑い)いやいや、あんなやさしいお母さんに文句言ったら、バチあたるよ」

どうやら、私の推測はあたっていたようです。

この会話があってからしばらく経ちますが、私は、まず洗濯物をとりこんだままほうりっぱなしにしておくことはやめました。
前は、なんとか夫にたたましたろう、って思ってたことに気づきました。←オニ嫁
それから、夜になって疲れて、更年期障害の症状が出てきたときには、夫に、「ちょっとこれ、運んでもらえない?しんどいもんだから、ごめんね~」と言っています。
そうそう、「ごめんね」は心から出ます。まったく陰性感情無しに使える言葉です。
そして、「ごめんね」を言い始めてから、夫は前より一段とやさしくなったような気がするし、気持ちよく家事を手伝ってくれるようになりました。
大感謝です。

夫婦が協力して、仲良く暮らすのは難しいです。
野田先生がよくおっしゃっていますが、「親は子どものためなら死ぬことだってできる。でも、配偶者に対してはそうはいかない」だな、と思います。
でも、そういう相手だからこそ、仲良くなれたときは二人で前よりずっとずっと幸せになれると思うし、そうなれるよう努力してゆきたいです。


【酒井 朋子 2014年1月21日】