2017年12月アーカイブ

『アドレリアン』第31巻第1号

日本アドラー心理学会学会誌『アドレリアン』第31巻第1号が届きました!
全国のアドレリアンの皆さんがどのような研究や実践をされているか、毎号楽しみに読んでいます。

今号で私が一番印象に残ったのは、第1回甲信越地方会の一般演題で発表された方の
「保育園年長児のクラス会議」の実践報告でした。
報告者さんが勤めていらっしゃる保育園では、給食のリクエストメニュー日といって、
年長さんが食べたいメニューを希望できる日があるそうです。
そのリクエストメニューを何にするかという議題で、年長児クラスで、
パセージの家族会議をもとにしたクラス会議をした、というものです。
クラスの子どもたちの様子がていねいに観察されていて、とても可愛らしいです。
年長児の子どもたちが集中して話し合えるように、お互いの意見がわかりやすいように、
様々な工夫をされていて素晴らしいと思いました。

その工夫として次のようなことが書かれていました。
・クラス会議をすることを、当日の朝、事前にお知らせした
・給食のときのようにテーブルの周りに着席して話し合った
・話し合いが長引かないように気をつけた
・一度で決定するのが難しかったので継続審議で次の日にもう一度話し合った
・「カツカレー派」と「いかフライ派」のふたつの選択肢に絞り込み、
 保育室を二分して、希望するメニューの場所に移動してもらった

また、
・他のことをしながら会議をしてはいけない
・クラス全員の会議には全員が参加すること
・相手が納得するように話すこと
をはじめに伝えて、会議のルールを守ってもらっていました。

子どもたちは自由に意見を言えるものだから、色々な意見が出てしまうのですが、
報告者である先生が、ときどき困ったりもしながら、
クラス全員の様子を見ながらも、一人一人の意見を大切に聞いて、
クラスのみんなに意見を求めていく様子が目に浮かびました。
年長の子どもたちの活発さと、大人らしさと、生意気さと、仲間思いなところ、
自分の子どもを通じて私は馴染んでいますが、
彼らと付き合うときに、
子どもたちをうまく乗せていく、こちらの方へもっていくという態度で接してしまいがちなように思います。
ですがこういう風に先生に接してもらえたら、子どもたちはほんとうに幸せだろうと感じました。
大人に一人前扱いしてもらえるということは、子どもたちを何よりも勇気づけると思います。

気になるリクエストメニューの決定については、
「いかフライ派」にただ一人残った子が「みんなが喜ぶと思って」と、カツカレーに同意した、
という感動的な結末が書かれていました。
子どもたちが、自分がどうすればみんなのためになるのかな、と考えて行動を選べたのは、
このクラス会議が成功したからというだけでなく、
このクラスがいつもあたたかく協力的な雰囲気であったからこそに違いないと思いました。


このクラス会議の後、
子どもたちが遊びなど自分たちで話し合って何かを決めていく様子が見られたと書いてありましたが、
それは子どもたちが話し合って決めるのはいいなあと学んでくれたからだと思います。

子どもたちは、きちんと話し合うことができるのです。
私も子どもたちと話し合って色々なことを決めていこうと思います。
テレビのルールも、食事のルールも、あるいは休日の計画も、色々なことを、
一度決めたからといってそのままにせずに、ひとつひとつ点検しながら一緒に家族会議で決めていこうと思います。

私はブログで、地味な(?)子育て実践報告を綴っていますが、
それはパセージを学んだ方々、育児をしている方々に、何かを届けられたらという思いが原動力になっています。
今号の『アドレリアン』を読んで、全国で多くの方々が日々の実践を頑張っておられることを頼もしく感じました。
私も、よく失敗をしながらではありますが、努めたいです。

【M.M.(鳥取) 2017年10月】



エンカレッジ金沢 10月例会

今回の事例は、小学2年生の男の子の食事の仕方について気になっているというお話でした。Aさんは、子ども(B君)が食事の際に左手をだらりとおろしているのが気になり、左手も使うように話をし、食事のたびに気が付くように声をかけたり合図をしたりしているそうです。B君はその時は直しても、また左手を使わないということが数年続いているという状況です。

[事例] 昼食時、左手を使わずにラーメンを食べている (感情は-1)
Aさん:ちゃんと左手使って下さい 
 B君:はーい (感情は+1~2)
Aさん:どうして左手出して食べないといけないかわかる?
 B君:うん。お行儀悪いから (感情は+1~2)
Aさん:そうやね。この前、神戸のおばあちゃんち行った時、給食みたいなガチャガチャ食べててお母さん恥ずかしかったわ
 B君:うーん (感情は+1~2)
Aさん:おうちでお行儀悪かったら、外で食べてもお行儀悪くなるんよ。大きくなって、安倍総理大臣とご飯食べることがあるかもしれんよ。その時にお行儀悪かったら恥ずかしいよ。B君はちゃんとご飯の食べ方教えてもらってないな、って思われるよ
 B君:えー、僕、安倍総理大臣とご飯たべるんか

参加者の質問より
Q:Aさんは、どこが一番困っていますか?
 「右手だけで食べようとしたことです」
Q:いつ、(左手のことを)言ったのですか?
 「食べ始めてすぐに言いました」
Q:その後、どうなったのですか?
 「左手を使っていたのですが、気を抜くと右手だけになって、(私が)あーっと言ったらすぐに直していました」
Q:B君の「はーい」はどんな感じでしたか?
 「わかってますよ~っていう感じです」
Q:いつごろからですか?
 「何年も前からです」
Q:左手を使うこともあるのですか?
 「お茶碗は左手で持ちます。お皿のおかずになると左手が出ないです」
Q:Aさん以外の家族の人たちはB君に注意されますか?
 「わたしのいない時はわかりませんが、注意していないと思います」
Q:家族の人たちもB君の左手のことを気にしていますか?
 「気にしていないと思います」
 (家族の人たち自身も食べ方が良いというわけではない、とのこと)


ロールプレイをし、B君の気持ちを考えてみました
 ・いつも言われていることをまた言われて「しまった」という感じ
 ・おばあちゃんの家での話、聞きたくないな
 ・お母さん、恥ずかしいの?
 ・食事が楽しくないな
 ・安倍総理大臣の話でちょっと話題を変えられるかな

子育ての目標の「私には能力がある」「自立する」「社会と調和して暮らせる」については、"感じられない"が多く、「人々は(お母さんは)仲間だ」については、"仲間だと思う""あまり思わない"の両意見がありました。

ブレイクスルークエスチョンズを使って、B君とAさんの適切な面を探します

B君は、(左手を使わないことが)お行儀が悪いこととわかっている、お母さんの話を理解している、お母さんが言っていることを守ろうという気持ちがある、感情的になっていない、長い話を聞いていて集中力がある、機転がきく、食欲旺盛といったことが挙がりました。

Aさんは、言葉遣いが丁寧、工夫して説明しようとしている、感情的になっていない、日本人として生きていくための大切なことを身に着けて欲しいと思って伝えている、等が挙がりました。

子どもに何を学んでもらえばいいのかを考えます
 ・学んでほしいことは、"左手を使って食べる"としました。

◆ここで、パセージテキスト2L (どんな場合に子どもは不適切な行動をするか)について2L1~4のどれに当てはまるか考えてみました。

2L-3かな、という意見と、2L-4 かなという意見が挙がりました。

2L-3(その行動が不適切であることは知っており、適切な行動も知っているが、適切な行動をしても望む結果が得られないと信じているとき)の理由として
・食欲を満たしたいことが優先になっているのかもしれない
・(左手を使うことは)面倒でできないのかもしれない

2L-4(不適切な行動で注目や関心を得ているとき)の理由として
・(パセージテキスト3Rと12Rを読んで)
 子どもの不適切な行動をやめさせようとする努力がかえって注目になってしまっている
・口をすっぱくして言うからこそ、子どもは不適切な行動をやめない
・不適切な行動は意識的か無意識的かわからない


子どもに学んでもらうためにどんな工夫ができるか考えました

①B君が「はーい」と言って左手をだしたことについて感謝を伝えてはどうか
   (パセージテキスト10L-3)
②B君が左手を使わないことには注目せず、B君の食欲旺盛な姿に注目して、食事を楽しくすることをしてはどうか
   (パセージテキスト4L-2,3)
   (勇気づけのうた 9)

Aさんは、左手を使わないことに触れないとどうなるんだろうといった不安のような様子があったので、①と②の2つのパターンでロールプレイをしてみることにしました。

○2つのパターンのロールプレイをしてみて
 ①のパターンの時のB君の気持ち
 ・お母さんはいつも左手が気になっているんだな
 ・お母さんを喜ばせたかな
 ・お母さんの望んでいることができたな
 ・評価を受けた感じ(横の関係ではない。上から目線)

 ②のパターンの時のB君の気持ち
 ・たくさんおしゃべりできて楽しかった
 ・(ラーメンが)おいしかった、と思った
 ・お母さんが笑顔でうれしい時間だった
 ・食事が楽しい

◆ここで、パセージテキスト10L-1,2を読んで話し合いました。
 
・お母さんが子どもに対し「こうなってほしい」という思いを持ちながらB君が左手を使ったことに感謝の言葉を言うのと、B君が(いつの間にか)左手を使うことが多く見られるようになった様子を見て、ああ成長したなと感じながら「この頃左手を使っているね」と言うのとでは、B君への伝わり方が違うのではないか
・子どもにこうなってほしいという構えでいる限り何をしても上手くいかないのではないか
・B君はもう正しい食事の仕方を知っているので、まずは不適切な行動に注目するのをやめて、どうなるか観察してみてはどうか
という意見がありました。


①よりも②のパターンの方が、子どもが子育ての目標に向かうのではないか、という意見からAさんは「いまにマナーを身に着けられると信頼する構えが大事なのですね」と納得されたようでした。そして、注目を与えずに観察してみるとおっしゃっていました。

さらにテキスト14Rを読み、課題の肩代わりについて話し合いました。注目を与えずにどうなるか観察した結果 1)ずっと左手を使わずに食べていて 2)なおかつ構えが変わったら、テキスト24Lにあるように子どもの目標を的確に知り、それを援助するために自分に何ができるか考えることもできるのではないかと話し合いました。

今回の事例では、いつも不適切な行動に負の注目をしていて、親が望む適切な行動をした時に正の注目をするのは、しばしば不適切な行動に注目するのと同じことになるということ、エピソードの中でのB君の適切なところをしっかりと見て、すでに知っていること(食事のマナー)はできるようになると信頼することが勇気づけになることを深く学べました。

Aさんは日頃からB君に様々なマナーやその他にも知っておいて欲しいことをとても熱心に丁寧に伝えておられます。それらをよく理解しているB君の成長を長い目で見つめ認めていきたいですね、と話し合えた例会でした。


【荒崎陽子(金沢) 2017年10月】