藍より青し


8月ごろのことである。
私が帰宅すると、娘(大学院1年)が、なにかを慌てて探していて家探し状態になっていた。今までの私だったらこんな場面ではマイナス感情を使って「ちゃんとしまっておかないからでしょ!」などと言うか、負の注目をしたまま課題の分離をして、知らん顔していたかもしれない。
しかしこの時は、ちょっと待てよ、と思った。そして冷静になってみたら、娘はとっても困っているんだなぁ、と思った。そして、私の大切な人が困っていたら、私は普段ならどんな行動をするかな?と考えた。
そこで、
「どうしたの?何か手伝うことある?一緒に探そうか?」
とたずねてみた。
娘はかくかくしかじかと説明をしてくれた。手分けして探したが、目当てものもは見つからない。さらに話を聴いてみると、どうやら、それがなくても大丈夫そうだ。こういうときは人生経験の豊富さが役に立つ。そこで、おそらく大丈夫だろうと伝えた。娘も万が一ダメだった場合の次善の策を用意して、落ち着くことができた。

娘から「相談に乗ってくれてありがとう。次からは(なくさないように)○○するわ。」と言われて、よかったなぁ、と思った。パセージの実践ができたなぁ、と嬉しかった。


それから数ヶ月して...。
ある日、私は家を出る直前に自分のパジャマを洗濯して干して出かけるつもりだったのを、すっかり忘れて干さずに出かけてしまった。
帰宅して、そのことに気がついた。洗濯機の中に、洗濯が終わって湿ったままのパジャマが数時間放置されていた。
私は自分の失敗が腹だだしくて、しかも、その時ほかに暖かく着心地よいパジャマが無くて、さらに腹を立てていた。洗濯して乾いたら同じのを着ようかなと思っていたのだ。

そうしていたら、娘が、
「どうしたの?」とたずねてくれた。
「干すの忘れたし、着たいパジャマが無いの」と言うと、
「パジャマ貸してあげようか?」と出してくれた。
私は「ありがとう!」と借りることにした。
娘が助けてくれて、共同の課題にしてくれたことで、私は自分への怒りがすっかりなくなってしまった。
まるで母と娘の立場が逆転しているようだなぁ、と思った。


ほんとうに、子どもは学ぶのが早いなぁ。
相手が困っている様子のときに、ほんの少しそれを分かち合って、協力すること。それがどれほど相手を勇気づけるのか、身をもって体験することができた。

娘は笑って
「いいお母さんになりそうでしょう?」と言うので、
私も「うん!すごくいいお母さんになりそう!」と言った。
まあ、娘は当分の間、母になる予定はないのだけれど。パセージには興味があるようだ。


【中井亜由美 2019年11月】

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